「sundaysfood」店主・大給亮一さんが案内する、八ヶ岳山麓のあたらしい日常
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#八ヶ岳

「sundaysfood」店主・大給亮一さんが案内する、八ヶ岳山麓のあたらしい日常

山があり、水が湧き、緑が日ごとに濃くなる八ヶ岳の裾野には、おおらかな自然に引き寄せられ、それぞれの営みをはじめた人たちがいる。レストラン「sundaysfood」を営む大給亮一さんの案内で、自然と暮らしがひとつづきになった日々に触れてみた。 東京から中央道を西へ、車を走らせること約2時間。標高がゆるやかに上がっていくにつれて、窓の外の緑がしだいに深くなり、空気がからりと乾いていくのがわかる。八ヶ岳の南麓、北杜市に降り立つと、まず大きく深呼吸をしたくなった。湿り気のない、澄んだ空気が胸の奥まですっと届く。都会のじっとりとした重さは、ここにはない。 案内人は、2016年に北杜市へ移り住んだ、大給亮一さん。最初に訪ねたのは、ご自身が営むレストラン「sundaysfood」だ。

ゆとりがおいしさをつくる。
「sundaysfood」

八ヶ岳を背にした、青いトタン屋根が目印の店。長く資材置き場だった古い小屋を生かした店内には、アートギャラリーを思わせる木製の家具やアートピースが並び、大きな窓が、絵画のように八ヶ岳を切り取っている。メニューは、シグネチャーのお好み焼きに、自家製スイーツ、ナチュラルワイン、エルダーフラワーソーダ。日常にちょっと食べたくなるものが揃う。

シグネチャーのお好み焼きに、自家製スイーツやナチュラルワイン。料理のおいしさと、山々を見渡す居心地のよさを求めて、県外からも多くの人が足を運ぶ人気店だ。

店には、いろんな人がやってくる。朝いちばんにコーヒーを飲みにくる常連さん。八ヶ岳のごちそうを目当てに訪れる観光客。パンや焼き菓子を買いにくる近所の人。だから、お好み焼き屋とも、カフェとも、ひとことでは言いきれない。

「ジャンルに縛られたくないんです。この店をどう呼ぶかは、お客さんに任せています」と大給さんは笑う。一日の終わりに、いい日だったなと思える。そんな小さなエッセンスのひとつになれたら、と話す姿には、肩の力の抜けた自然体の佇まいがあった。

急いで数を売ることを目指すのではなく、自分たちが「いい」と思えるものを、自分たちのペースでお客さんに手わたしていく。マイペースな店のありかたを支えているのは、北杜という土地柄でもあるのだろう。流れていく時間も、少しゆっくりに感じられた。

いろんな過ごし方を受けとめる。
「のほほん BOOKS&COFFEE」

続いて車を走らせて向かったのは「のほほん BOOKS&COFFEE」。県道沿いの緑に囲まれて、木づくりの小さな建物が、ぽつんと佇んでいる。大きな看板があるわけではない。軒先のウッドデッキと、よく手入れされた庭が、訪れる人をやわらかく迎えてくれる。何度も前を通っていた人でも、うっかり見過ごしてしまいそうな、風景にすっと溶け込んだ佇まいだ。

一歩なかに入ると、本屋とカフェが、ひとつながりの空間になっていた。淹れたてのコーヒーの香りが、本の紙のにおいと、やわらかくまざり合う。木の温もりに満ちた店内には、山での暮らしや、自然にまつわる本が多く並んでいる。土地に暮らす人の関心が、そのまま棚に映し出されているようだ。気になった背表紙を取り出して、ページをめくる。一冊ごとに、知らない世界の入口が開いていく。

掲げるのは、"山暮らしの本屋"。「ととのう」「眺める」といった棚の分け方で、本が並ぶ。地元で焙煎されたコーヒーやこだわりのスイーツも、長居したくなる理由のひとつ。

店内には、心地よい賑わいが広がっていた。パソコンを広げて作業をする人。コーヒー片手に、おしゃべりに花を咲かせる人。目的の違う人たちが、同じ屋根の下で、それぞれの時間を過ごしている。

印象的だったのは、お店の奥のキッズスペースと、庭だ。子どもが本を選んでいるあいだ、大人はコーヒーを片手に、別の棚をのぞく。庭に出れば、遊具のようなオブジェがあって、子どもは飽きることなく駆けまわれる。世代を超えて、家族みんなが、同じ場所で心地よく過ごせる。細やかな配慮が、空間のすみずみに行きわたっていた。

大給さんも、本を買いに来ることもあれば、庭の小屋で開かれる個展を、のぞきに来ることもあるという。のほほん BOOKS&COFFEEは、本を売るだけの場所ではない。本をきっかけに、人それぞれの楽しみが、店のなかで静かに広がっていく。滞在のあいだに、ふらりと立ち寄りたくなる一軒だ。

水の音に耳をあずける。
「吐竜の滝」

大給さんが次に連れていってくれたのは、川俣川の渓谷にある「吐竜の滝」だった。駐車場から、木立のなかの遊歩道を10分ほど歩く。せせらぎの音がしだいに大きくなり、野鳥の声が重なっていく。

やがて、滝があらわれた。岩のあちこちから、いくつもの細い流れが滲み出すように落ちてくる。八ヶ岳に降った雨や雪が、長い時間をかけて地下にしみ込み、溶岩の層をくぐり抜けて、ようやく地上に顔を出す。緑に覆われた岩肌を、絹糸のように水がつたう。そばに立つと、空気がひんやりと涼しい。派手さはないけれど、見ているうちに、静けさのほうに惹き込まれていく。

落差10メートル、幅15メートル。岩間から流れ出る姿を、水を吐く竜に見立てたことが名の由来。駐車場から遊歩道を10分ほど歩けばたどり着ける、気軽さも魅力の名瀑。

滝のかたわらに、立て看板があった。一帯は「八ヶ岳川俣景観保存地区」。アカマツやツガといった針葉樹と、ミズナラやクリ、カエデなどの広葉樹が、ひとつの斜面に混じり合って育っているという。標高1,200メートルほどの渓谷は、植生が移り変わるさかいめにあたる。本来なら別々の高さに育つ木々が、肩を寄せ合うように同居している。

しばらく佇んでいると、耳が、水の音でいっぱいになっていることに気づく。幾筋もの流れが、それぞれの場所で、それぞれの音を立てている。ひとつの大きな音ではなく、小さな音の重なり。水音に包まれていると、ふだんは聞き流している自分のなかの声に、自然と耳を傾ける時間が長くなっていく。大給さんも、自然に身をゆだねてぼんやりしたくなったとき、ひとりでよく訪れるのだという。

八ヶ岳の自然は、いつも水とともにある。地中をめぐった水が、滝になり、川になり、やがて麓の暮らしへとつながっていく。蛇口をひねれば出てくる水も、もとをたどれば山の恵みだ。

音のなかに身をおく。
「listude」

地図を頼りに、細い道を進んでいく。緑はしだいに深まり、静けさが増していく。坂を上がると、「listude」が姿をあらわした。

listudeは、スピーカーをつくるブランドだ。鶴林万平さん・安奈さんのご夫妻が、奈良で活動を続けたのち、2025年の春、北杜の森へと移ってきた。背中を押したのは、親しい友人でもある大給さんの存在。気軽に話せる仲だからこそ、あれこれ相談しながら、移住を決められたという。建設予定の土地を下見に訪れるたび、sundaysfoodに立ち寄っては、話しこんだ。

手がけるのは多面体の無指向性スピーカー。設計から製作までをみずからの手で担い、一台ずつ受注生産でつくりあげる。全国の住まいや宿、店舗で愛用されているブランドだ。

音楽にこだわる人なら、listudeのスピーカーは見かけたことがあるかもしれない。「sundaysfood」や「のほほん BOOKS&COFFEE」にも置かれていた。森で耳をすませば、鳥の声も風の音も、決まった方角から届くわけではない。自然の聴こえ方とテクノロジーをシームレスに重ね、あらゆる方角へ均しく音を放ち、森で音に包まれる感覚をスピーカーで再現している。

工房の屋外には、斜面の樹々に抱かれた「森のステージ」。建物のなかには、天井の高い「森のホール」。音に包まれる感覚を、身をゆだねられる空間で味わうことができる。ホールでひらかれる「音楽喫茶 14℃」は、一日に二度、8人限定の予約制。ホールのために編まれた音楽と、一杯のドリンク、棚の本とともに、思い思いの時間を過ごせる。

「八ヶ岳の麓には、食があり、自然があり、音楽がある。それらを自分たちだけのものにせず、この土地全体の文化として育てていきたい」。listude 万平さんの言葉には、ひとつの工房にとどまらない、ひらかれた視線があった。

山麓では、それぞれの営みが、少しずつ手を取り合いはじめている。山に、水に、土に引き寄せられた人たちが根をおろし、次のだれかを呼び寄せている。

Yatsugatake Travel Guide

sundaysfood(https://www.instagram.com/sun.days.food/
山梨県北杜市高根町五町田1227-1
0551-88-9011

のほほん BOOKS&COFFEE(https://www.nohohonbooks.jp/
山梨県北杜市大泉町西井出8240-8420
0551-45-9022

吐竜の滝
山梨県北杜市大泉町西井出8240-1

listude(https://www.listude.jp/
山梨県北杜市大泉町谷戸7543
0551-45-6952

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