ナビゲーターと一緒に、キャビンから一歩、自然のなかへ踏み出す「Nature Club」。白樺湖を案内してくれるのは、湖畔で育ち、世界の雪山を滑ってきた福井五大(ふくい・ごだい)さんです。 元スキークロス日本代表で、引退後はSUPの全日本チャンピオンにもなった人。いまは、育った白樺湖に戻り、湖と山を案内しています。世界を見てきた人が、なぜ、白樺湖に帰ってきたのか。白樺湖には、どんな遊びが待っているのか。お話を聞きました。
夏は自転車、冬はスキー

福井さんは大阪で生まれ、3歳のときに家族で白樺湖へ移り住みました。両親が、湖畔でペンションを始めたのです。窓を開ければ湖、振り返れば山。そこが、福井さんの原風景になりました。
「夏は自転車に乗って、冬はスキーをする。まわりの子どもも、みんなそうでした。それが当たり前の生活だったんです」
夏はマウンテンバイクで、友達と山道を走り回る。ちょっと走れば、そのまま山を駆け上がるトレイルランニングになる。冬は、家のそばのスキー場で滑る。都会の子どもが公園で遊ぶように、湖畔の子どもは、湖と山で遊びました。自然で遊ぶことが、暮らしの一部だったのです。
心に残っているのは、父の姿です。
「マウンテンバイクが流行る前から乗っていて、長い階段を、横向きに跳びながら上ったり下りたりするんです。子どもながらに、え、すごい、って」
運動が得意な父を、素直に尊敬していました。自分も、そうなりたい。身体を動かすことが大好きになったのは、そんな父を見ていたからです。自転車も、山を走るのも、湖の遊びも。ひととおり遊んだ少年が、高校生の頃に選んだのは、スキーでした。中学も高校もスキー部に入り、アルペン競技を続けました。好きだから、続けた。それが、のちに世界へつながっていきます。
環境がなければ、自分でつくる

大学進学で神奈川へ。そこで出会ったのが、当時できたばかりの新種目、スキークロスでした。
「4人で同時に滑って、駆け引きがあって、抜いたり抜かれたり。一人で滑ってタイムを競うのとは、アドレナリンの出方が全然違いました」
のめり込んだ先に待っていたのは、ないものだらけの環境でした。実業団がない。だから、履歴書を持って会社の人事に直接連絡し、昼は働き、夜はトレーニングし、冬は遠征に行ける就職先を、自分で探しました。日本代表チームは、できたばかり。コーチもいない。
「飛行機もホテルもレースのエントリーも、全部自分たちで手配して。速い選手のビデオを、みんなで見て研究してました。滑っているときはライバル、ゴールしたら仲間。そういう空気が、いちばん好きでしたね」
遠征で見た世界は、福井さんの中に、大切なものを残しました。ヨーロッパの圧倒的なスケールの山。北米のリゾートでは、一日中スキーを履かずに、景色とごはんだけを楽しむ人たちがいました。滑らないのに、スキー場にいる。朝から夕方まで滑り続けるのが当たり前だった福井さんには、カルチャーショックでした。
そして、ニュージーランド。大会ではなく練習で通った土地で、福井さんにとって特別な場所です。なかでもワナカは、ふもとに湖があり、絶景の道路が走り、スキー場が点在する、白樺湖によく似た湖畔の町でした。時間の流れ方が、ゆっくりしている。あんないいところはない、と福井さんは言います。
「住宅の横に、ボートやカヤックが当たり前にあるんです。遊びが暮らしとセットになっている。あんなふうに白樺湖で過ごせたらいいな、と思ったのは、あのときでした」

遠征中のかかとの骨折を経て、30歳で競技を退きます。時間ができて、いちばんやりたいことは何かと考えたら、サーフィンでした。現役の頃から、オフの日に週に一度、続けていた遊びです。茅ヶ崎に移り、毎日サーフィンをするつもりでした。ところが、いい波が来るのは、週に1〜2回。現役時代は、波のいい日だけ呼んでもらっていたのだと、住んでみて初めて気づきました。
「波がない日に何をしようかと思って、SUPを漕ぎ始めたんです。パドルで水をつかんで進む感覚が、想像より奥深くて」
当時、SUPは日本ではまだ始まったばかりで、教えてくれる人もほとんどいませんでした。波のない日は、茅ヶ崎から江の島まで10kmを漕ぐ。数年後、全日本選手権の6kmレースで優勝しました。
「上手くなっていく段階が、いちばん楽しいんです。フィジカルも身体の使い方も、別の種目で散々やってきたので。違う種目に置き換えたときに、何をすれば良くなるかは、なんとなくイメージできるんです」
スキーからサーフィン、サーフィンからSUP。新しい遊びに踏み出すたびに、福井さんは、できるようになっていく楽しさを味わってきました。そして、子どもの小学校入学に合わせて、白樺湖へ帰ってきます。両親の宿と、湖のガイドツアーを引き継ぐために。
湖で、雪原で、高原で

いま、福井さんが「Nature Club」として案内してくれるのは、白樺湖と、湖畔で過ごすゆったりとした時間です。
湖畔で育った人だけが知っている、白樺湖の顔があります。朝と昼で、夏と冬で、湖はまるで別の場所になる。SUPで本気で漕ぐ人も、カヌーでゆったり浮かぶ人も、湖畔で本を読む人も、同じ湖で、それぞれの時間を過ごせます。
夏の朝。まだ風が起きる前の湖面は、鏡のように静まり返っています。山の稜線が、逆さまに映る。
「ミラーレイクって呼んでいるんです。カヌーで漕ぎだすと、静かな水面に自分の通った跡だけが一本の線になって残る。この気持ちよさ、パウダースノーに誰もいない斜面で最初のラインを引く時の気持ちよさと、同じなんです。上手も初心者も関係ない。気持ちよさの正体は、いつも同じところにあるので」
世界の雪山で味わってきた、いちばんの気持ちよさ。福井さんはそれを、育った湖の朝に見つけました。カヌーなら漕がなくても浮かんでいられるので、湖の真ん中で朝ごはんを食べる、という朝もあります。

冬になると、湖が凍り、あたり一面が雪原に変わります。スノーシューを履いて、雪の上を歩く。元スキー選手の福井さんにとって、雪の遊びは本領です。少し慣れたら、そのままスキー場へ、雪山へ。
秋は、色づいた高原を、自転車で走る。湖畔から続く道は、子どもの頃に福井さんが走り回った道です。風を切って坂を下れば、湖と山が、一度に目に入ります。
どの遊びでも、福井さんの案内は、気軽に始められて、それでいて、いちばん気持ちのいいところまで連れて行ってくれます。手ぶらで、旅行中の普段着のままで大丈夫です。白樺湖は波もうねりもなく、標高が高いので夏も涼しい。山のなかの湖は森に囲まれていることが多いのですが、白樺湖は、車山や霧ヶ峰の方まで景色が広がる、開放感のある湖です。
「子どもが漕げなくなっても、僕はあまり助けないんです。お父さんのカヌーにつないで、お父さんお願いします、って」
普段は仕事で忙しく、家では少し疲れているお父さんが、家族の船を引っ張るヒーローになる。福井さんが、階段を跳ぶ父を見て「すごい」と思った、あの瞬間と同じものです。
「家族の関係が、ちょっと良くなって帰っていく。あの光景を見るのが、好きなんですよね」
入り口は、ここでいい

これから白樺湖に来る人へ、伝えたいこと。福井さんの答えは、日本人の話から始まりました。
「日本人って、自然と遊ぶのがまだ上手じゃないと思うんです。ガイドツアーに入って何かやってみよう、という文化が薄い。でも楽しさを知っているからこそ、やってほしいんです」
だから、はじめるときのハードルは、徹底的に取り除く。手ぶらでいい、普段着でいい。まずは湖で漕いでみて、意外とできるじゃん、と思ってもらう。うまく漕げるかどうかより、気持ちいいと感じてもらうことが先です。
「ちょっと踏み出してみると、次に行くハードルが一気に下がるんですよ。湖でできたら、川へ、海へ、離島へ。そうやって広がっていくと、人生が豊かになると思うんです」
実業団がなければ自分でつくり、コーチがいなければ仲間と研究し、波がなければ漕いだ。新しい遊びに踏み出すことの楽しさを、誰よりも知っている人が、隣にいて、最初の一歩を、軽やかにしてくれます。
夏に湖で漕げたら、次は冬の雪原を歩いてみる。その次は、自転車で高原を走ってみる。福井さんと会うたびに、遊びはひとつずつ増えていきます。踏み出した先には、いつも次の入り口がある。そうやって、遊びは暮らしとセットになっていきます。白樺湖は、その最初の一歩にちょうどいい場所です。
湖の上で、朝食を。
日の出とともに、静寂の中へ漕ぎ出すカヌー
所要時間:1時間30分
料金:10,000円/名~